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京都地方裁判所 昭和61年(ヨ)1140号 決定 1987年1月09日

申請人

村西博次

長谷川英一

右代理人弁護士

川中宏

森川明

荒川英幸

村山晃

稲村五男

吉田隆行

竹下義樹

岩佐英夫

中尾誠

中村和雄

被申請人

日本国有鉄道

右代表者総裁

杉浦喬也

右代理人弁護士

天野実

右代理人

山口満彦

北村輝雄

土井量弘

主文

一  被申請人が昭和六一年一〇月一六日付で申請人両名に対してなした停職六箇月の懲戒処分の効力を仮りに停止する。

二  申請費用は被申請人の負担とする。

理由

第一当事者双方の求めた裁判

一  申請人ら

主文同旨。

二  被申請人

(一)  本件仮処分申請を却下する。

(二)  申請費用は申請人らの負担とする。

第二当裁判所の判断

一  申請人村西及び同長谷川の両名がいずれも梅小路駅において構内指導係として勤務し、昭和六一年七月当時申請人村西は「切り方」(貨車の入替え作業)を、同長谷川は「空気制動方」(貨車のエアホースの解結作業)を担務としていたこと、被申請人は、昭和六一年一〇月一六日付で申請人両名に対し日本国有鉄道法三一条により六箇月間停職する旨の懲戒処分を発令したが、その懲戒事由とは、「昭和六一年七月一三日一七時二九分ころ、勤務時間中管理者の注意を無視して勤務を放棄し、よって、業務の正常な運営に支障を与えたことは、職員として著しく不都合であった」というものであることについてはいずれも当事者間に争いがない。

二  本件疎明資料を総合すれば、申請人村西は、昭和六一年七月一二日午後三時ころ猪俣助役から自宅に電話を受けその際同助役から翌日の日勤を一昼夜交代の徹夜勤務に変更できないかとの打診を受けたものの、昨日は徹夜勤務であったうえ、同月一四日も勤務予定上徹夜勤務であり、一三日と一四日の徹夜勤務が重なるため断ったこと、その後電話の発信者が猪俣助役から石川助役に代り同助役から再度一三日の徹夜勤務を依頼されたものの、一三日夜は九月一五日に内定していた結婚式の打合わせのため婚約者の家に行くという私的な用務も存したため再度右用件を同助役に告げることもなく断ったこと、申請人村西は、同年七月一三日朝日勤の予定で出勤したところ、勤務先の西部運転詰所において申請人長谷川が勤務変更の件で藤井武元助役に抗議していたため自己の勤務体制が心配となり同日夜の勤務予定表を見たところ、何ら承諾したことはないのに一昼夜交代の徹夜勤務体制で勤務予定表の記載がなされていることを知ったこと、他方申請人長谷川は、同年七月一二日午後一一時前ころ藤井武元助役から自宅に電話を受け、その際翌日の勤務について予定されていた日勤から徹夜で切り方の勤務につくとの勤務変更の打診を受けたが、切り方の勤務については昭和五九年二月のダイヤ改正の際切り方から職制上一段階下の空気制動方に戻されており二年余りも切り方の勤務に従事していないうえ、しかも徹夜勤務ということになると安全に業務を遂行することができるかという点についても不安があり、さらに一三日夜は友人と会う約束も存したため「明日用事もあるし、出来ません」と言って電話を切ったこと、同申請人は、翌一三日午前八時二〇分ころ出勤し西部運転詰所において昨晩の突然の勤務変更の電話につき藤井武元助役に抗議している際何気なく机の上に置かれていた勤務予定表を見たところ、右表には自己が一三日の空制の徹夜勤務として記載されていることを知り、右同様の経緯で勤務変更のなされていた申請人村西と共に勤務変更につき抗議していたところ、被申請人の管理者である藤井武元助役から同日午前八時三一分ころ申請人両名に対し勤務予定表通りの勤務に従事せよとの業務命令が発せられたこと、申請人両名は、当初予定されていた日勤終了後退出し、それぞれ私的な要件で外出したこと、被申請人が申請人両名に対し前記業務命令を発したのは、同年七月一〇日饗場範男、園秀樹を人材活用センターに配属したためであって、同人らの同センターへの配属により同月一三日夜の徹夜勤務に二名の欠員を生じることは同人らに事前通告のあった同月五日の時点で既に判明していたことであること、ところで、被申請人作成にかかる就業規則細則によれば、勤務予定表は毎月二五日までに翌一箇月分を作成し公表する、勤務は四日前に確定する、勤務確定後已むを得ない場合は、本人の生活設計を十分配慮して勤務の変更を行うことが出来ると規定されているところから、被申請人は、業務命令により本人の承諾がなくても勤務当日の変更も可能ではあるが、かかる場合には管理者において変更されるべき本人の生活設計について充分な配慮が必要であり、この点について検討すると、右藤井助役の発した申請人両名に対する本件業務命令は、申請人らが如何なる理由で一三日の徹夜勤務を断っているのかを問いただすなどの行為をなしておらず、その拒絶理由の把握を全く欠落しており、さらに、申請人村西が一三日の徹夜勤務に従事すると一四日も連続して徹夜勤務に従事する結果になること、また申請人長谷川については二年余りも従事していないしかも職制上一段階習熟を要する切り方の徹夜勤務を打診しており、また勤務変更の打診もいずれも前日であって安全面の配慮も充分でないと考えられること、また申請人両名は、梅小路駅西部運転詰所に勤務しているものであるが、同東部運転詰所に勤務している田中春男らに対しても申請人両名と同様に同月一二日夜間に一三日の日勤を徹夜勤務に変更できないかとの電話での打診があったが、右田中らは断ったところ、翌日の朝の段階では右田中らに依頼した部分の勤務予定表は欠員のままであり、同詰所を管理する室助役等の手配により右田中らには申請人両名と異なり業務命令を発することなく運転主任らが右田中らに依頼していた徹夜勤務に従事して勤務を遂行したことが一応認められる。

三  ところで、申請人両名に対する本件停職処分は、被申請人が昭和六一年七月一三日午前八時三一分に発した右両名に対する同日の徹夜勤務をも命ずる旨の業務命令を無視して勤務を放棄したことを理由とするものであるが、右被申請人の発した業務命令は、前記二で認定したように、勤務変更の要件である申請人両名の生活設計等を何ら配慮しておらず、勤務変更の要件を著しく欠いているところから無効であり、このため右業務命令違反を理由とする本件停職処分もまた効力を生じないものというべきである。

次に一件記録によれば、申請人両名は、労働者として被申請人から支給される賃金によって生活を支えているものであるが、本件停職処分発令の日から勤務に従事しておらず、給与は基本給の三分の一のみ支給されているのにすぎないことが疎明されるから、申請人両名の本件申請は、保証を立てさせないでこれを認容することとし、申請費用の負担については民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 水口雅資)

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